2024/05/30
私のクリニックには、アンパンマンが大好きなスタッフがいます。そして、数人のスタッフのエプロンには、こどもを怖がらせないようにアンパンマンとその仲間達がたくさん描かれています。また、アンパンマン関連の人形は大人気。開業して20年以上経ちますが、アンパンマンの人気は全く衰えを知りません。私には、なぜ人気があるのか、全く分からないでいました。
作者の、やなせたかしさんは、大正8年に高知県で生まれました。父は中国で32歳で亡くなり、弟は戦争中22歳で学徒出陣で戦死してしまう。2人ともあまりにも若く、未練を残し亡くなってしまいました。ただ、そこからアンパンマンの有名な歌が生まれる。
「何のために生まれて、何をして生きるのか、分からないまま終わる、そんなのはイヤだ!」
自身が作詞した「アンパンマン マーチ」は、幼児には到底理解できず、残酷にさえ感じる。これは、小さな子供のいる親など大人に向けられたものではないか、と思えてならない。かつて自衛官の幹部だった知人が、このフレーズは、素晴らしい、と言って、感心していたのを思い出した。
また、アンパンマンは、困った人がいると助けないわけにはいかない。なんと、自分の顔まで食べさせ、元気にさせる。代わりに、自分は元気がなくなる。こんなキャラクターは他にはない。これも、戦争中や戦直後の食べ物が不足していた混乱時に、人々が助け合っていた状況と重なる。
悪役はバイキンマン。愛嬌のある明るいキャラクターで、どこか憎めない。日本では、明治時代から昭和20年代まで、死因の1位は結核という感染症だった。癌よりも多かった。さすがに、幼児向けの絵本やアニメには、戦争や癌は出せなかったので、身近なバイキンを悪役にしたのではないか。そして、しっかりと手洗い、うがいをして、風邪をひかないようにしましょう、といったところでしょうか。
アンパンマンは戦争を経験したやなせたかしさんだからこそ、生み出すことが出来た。彼の精神がどれだけ今に受け継がれているのか?
未だ世界各地で戦争が終わらない。大人の世界にこそ、アンパンマンの登場が必要だ。